こんなことって、信じられるだろうか。
ある日、家に帰ると、机の上に並んでいたはずの「ペンギンズ」たちがいないのだ。
「ペンギンズ」とは、1年ほど前に親戚の男の子がくれたペンギンの置物のことである。
全部で3つあるので、そのように複数形で呼んでいた。
ひとつひとつには名前をつけていなかった。
強いて言うならば、左から順に「1号」「2号」「3号」である。
個々の名前はなかったが、それなりには気に入っていた。
あちこちのディテールの歪みが、いかにも「子供の手作り」という感じで、良い味をしていたのだ。
しかし、僕もいい歳なので、ひとつひとつに名前をつけて遊ぶような柄ではないと思い、
僕なりに最大限の親愛を込めて、彼らをまとめて「ペンギンズ」と呼んでいた。
そのペンギンズたちが、帰宅するといなくなっていた。
盗難にでもあったのだろうか。
ざっと見回したが、部屋の中は出かける前と変わった様子はない。
ひとまずは座ってゆっくりしようと思い、デスクの椅子を引くと、
見覚えのない紙きれが1枚、おいてあった。
紙切れにはサインペンで一言、このように書いてあった。
「ぼくたちは旅にでます」
「きっと、ペンギンズが僕に宛てて書き残した置き手紙だ」
僕はまっ先にそう思った。
しかし、まさか、ペンギンの置物がひとりでに動いて手紙を書くなんて考えられない。
ペンギンズを盗み出した犯人がいたずらしたのだろうか。
立ち去るときに、ほんの少し遊び心をきかせたくなったのかもしれない。
メモの筆跡も、ばれないよう意図的にくずしてあるように見える。
そして、誰かがこの部屋に侵入したのであれば、
ペンギンズ以外の物も一緒に盗まれた可能性が高い。
僕は心配になり、そこらじゅうの引き出しを開けてまわった。
しかし、どれほど探しても、一向に不審な点は見当たらなかった。
机の上にいたペンギンズたちだけが、消えるようにいなくなっていた。
ペンギンの置物のほか、何も盗まない泥棒なんているのだろうか。
それとも、初めからペンギンズだけを狙って忍び込んだのだろうか。
だとすると、犯人はペンギングッズのコレクターなのかもしれない。
既製品には飽きて、お店で売っていないものに目をつけたのだろう。
しかし、もしそうだとしても、僕がいとこからペンギンの置物をもらったなんて、
どうしてわかったのだろう。
結論のつかないことを一人でぐるぐると考えていたら、
頭がぼうっと疲れてきた。
ふと、書き残してあったメモを手にとった。
「ぼくたちは旅にでます」
何度見ても、それだけしか書かれていない。
裏返してみても、何もない。
メモを眺めているうちに、僕はだんだんこう思うようになった。
「メモのとおり、きっと、旅に出たのだろう」
「旅にでます」と書いてあるのだ。そのとおりに受けとればいいではないか。
たしかに、何者かが忍び込んでペンギンズを持っていった可能性は高い。
しかし、仮に何者かの仕業であったとしても、
その犯人を追及することに一体、どれほどの意味があるだろう。
何しろ、ペンギンの置物がなくなった以外、実害はないのだ。
知らぬうちに忍び込まれた、という防犯上の不安はあるものの、
いちど入った家に、リスクを負いながらもういちど侵入する泥棒がいるとは思えない。
「そうだ。きっとペンギンズは旅に出たのだ」
そう考えた方が絶対に楽しい。
「誰がやったのか」なんて、その気になればすぐに調べられることだ。
もし本当に旅に出たのなら、僕にできることは、
彼らが無事に帰ってくるのをただ、待つことだけだ。
そう思うとなんとなく気持ちがほっとして、
知らぬうちに眠ってしまっていた。
≪ つづく ≫

