映画評論家、寺脇研のブログ。オススメ映画や、人生の楽しみ方をお届けします。毎週、火曜日更新!

寺脇研の人生タノシミスト

2010/11/30

ありがとうございました

posted by: 寺脇 研 | category: 映画, 激弾BKYU, 演劇

突然のお知らせで恐縮です。

3年半、170回余り続いてきたこのコラムを、今回で終えることになりました。この「人生タノシミスト」というブログ自体が、なくなります。

長い間のご愛読、ありがとうございました。

最後に、このコラムで何度も取り上げた、わが劇団「激弾BKYU」の最新公演について書きたいと思います。11月8日から14日までの一週間、阿佐ヶ谷アルシェという小劇場で「おいらく幻想曲」が上演されました。「おいらく」とは「老いらく」すなわち老境にあることです。そう、高齢者介護施設で暮らすお年寄りたちの物語なのです。

1988年初演作品の、91年に次ぐ3度目の上演になるのは、内容に自信があるからでしょう。また、初演の頃現実味のなかった高齢化社会が現実になっているという点も、今回の公演に意味を持たせます。また、前回、前々回に30歳前後だった中心役者たちが今は50歳近くになり、演じているお年寄りの年齢に徐々に近づきつつあることも、新しい面白さを生んでいました。

この劇団のいいところは、9人のメンバーのチームワークが密接な点です。残念ながらひとりが体調を崩して出られませんでしたが、残る8人がみごとに一丸となって成功させた舞台でした。役者同士のあうんの呼吸が、客席にまで伝わってきます。演出家が仕切るのでなく俳優各自の自己演出の集合体が芝居になるという「バンド・ア・パート・システム」は、すっかり激弾BKYUの特色になってきました。

次は25年後の劇団結成50周年記念公演にこの作品を上演すると、座長の酒井晴人が宣言しました。そのとき彼は75歳。団員たちも50代から70代になります。実際に自分たちが高齢者になって、この、しぶとく明るく生きる老人たちを演じてみようというのです。

さあ、そのときわたしは83歳。生きていられますかね。もし運良く生きていたら、2035年の「おいらく幻想曲」を、自分の幻想のように楽しみたいものです。

このコラムを愛読してくださった皆さんも、何かの縁です。激弾BKYUを忘れないでいていただけるとうれしく思います。http://www.bkyu.com/index.html

そうそう高齢者といえば、映画欄でお薦めする『ふたたび swing me again』も、若き日にジャズバンドを組んでいたお年寄りたちが50数年後に再び演奏に挑む話です。こういう映画や「おいらく幻想曲」を観ると、歳をとることが怖くなくなります。

このコラムに書いてきたようなことは、年明け2011年1月から次のところで新しい形でお届けできると思います。

■URL http://www.katariba.net/k-univ

「カタリバ大学」で検索してください。

また、http://www.mammo.tv/ では引き続きコラムを書き続けますので、そちらの方もよろしかったらどうぞ。

寺脇研 今週の映画レビュー

◎=ぜひお薦め  ○=余裕があれば観てください ●=わたしはウンザリ

ふたたび
swing me again
ハンセン病差別の問題と老人の生き甲斐を絡めて深く考えさせる佳作
ゲゲゲの女房 朝ドラとは全く違う映画にしかできない表現がみごと
月あかりの下で
ある定時制高校の記憶
学ぶとは何かを痛切に考えさせる。教育について思うところある人必見
堀川中立売 突飛な展開や行動、それでいて犯罪と人間、メディアの問題を鋭く提起する混沌の妙
442日系部隊
アメリカ史上最強の陸軍
作者の思いはわかるがよく噛みしめないと浅い理解に終わる恐れが…
レオニー 伝記としてでなく歴史物語として見れば面白い
ゴースト
もう一度抱きしめたい
肝心のゴーストの約束事がご都合主義で呆れる

※今回で「寺脇研の人生タノシミスト」はしばらくお休みをさせて頂きます。長いあいだご愛読くださった皆様、ありがとうございました!

2010/11/23

森繁久彌氏を偲んで

posted by: 寺脇 研 | category: 映画, 演劇

韓国から帰ってきた次の週は、嵐のように映画や落語や芝居を楽しみました。

11月8日は、調布で日本映画俳優協会60周年のイベントに参加しました。09年に96歳で亡くなられた日本映画の歴史的名優・森繁久彌を偲んで、代表作『夫婦善哉』(1955年 豊田四郎監督)の上映会です。昭和の初めの大阪を舞台に、ちょっと頼りないけれど優しいお坊ちゃん育ちの勘当息子・柳吉(森繁久彌)と元芸者の恋女房・蝶子(淡島千景)の二人暮らしが描かれます。今観ても、全く古びていません。名作です。

上映後、舞台で淡島さんに森繁さんの思い出を語ってもらう聞き役がわたしでした。1924年生まれの淡島さんは、そのお歳とはとても思えない若々しい方です。何度か、トークのお相手をさせていただく都度、いつもお元気なのに驚かされます。『夫婦善哉』の頃は三十を過ぎたばかりでそれはそれは美しいのですが、今の淡島さんも美しく老いていて、ちょっとドキドキしてしまいます。

淡島さんの記憶力がすばらしいので、55年前の映画を撮影した日々のことが話の中で鮮やかに甦ります。共演が決まったとき、森繁さんから筆で書いた手紙が届き、それにはご自分が『夫婦善哉』という映画で俳優としての勝負をかける思いがせつせつと綴られていたという秘話。また、当時松竹に所属していた淡島さんが初めての東宝撮影所での仕事だったため極度に緊張していたこと。それを気遣う森繁さんが毎日、奥様の淹れた美味しい紅茶をスタジオの隅でふるまってくれたこと。 …55年前の撮影現場が目の前に現れたかのようでした。

淡島さんから見ればわたしなんか若造です。大女優の貫禄に押されて、すっかり緊張してしまいました。そんなわたしをからかうように、柳吉のようなロクに働きもしない遊び人を愛し抜いて支え、必死で働いては遊ぶ金を工面する蝶子のような女房は「殿方にとっては都合がいい女でしょうねえ」と話を振られて、あたふたしてしまいました。たしかに、男性にとっては有難い女性ですものね。

どう答えようかと戸惑っているところに、舞台の袖から時間切れの合図が来て助かりました。「それでは時間になりましたので… 」となんとか逃げることができた次第です。

8日からは、わが激弾BKYUの公演「おいらく幻想曲」も始まりました。阿佐ヶ谷の小さな劇場に毎日のように通い、打ち上げの席で楽しい酒を飲みました。なにしろ彼らBKYUの役者たちはわたしの家族のようなものですから。この芝居の話は次回に詳しくご報告しましょう。

寺脇研 今週の映画レビュー

◎=ぜひお薦め  ○=余裕があれば観てください ●=わたしはウンザリ

パートナーズ 犬、子ども、失明した歌手… よくある物語を娯楽映画のお手本のようなすばらしい技術で光らせる
裁判長!ここは
懲役4年でどうすか
おふざけ裁判劇かと思っていると意外にも深い内容
パラノーマル・アクティビティ
第2章 TOKYO NIGHT
映画というよりイベント
黒く濁る村 展開は意外だがやや冗長

2010/11/16

韓国ピンク映画祭に今年も

posted by: 寺脇 研 | category: 映画

このコラムで毎年ご報告している、韓国ソウルでのピンク映画祭に、今年も行ってきました。07年にスタートして以来4回目を迎え、すっかり韓国の映画祭のひとつとして定着したようです。

Pink Loversと名乗るファンクラブもできて、1回目から毎回足を運んでいるという若い女性たちが、力強く応援してくれています。今年はわたしもじっくり腰を据えて、上映された作品を、過去に観たことがあるものも、初めて観るものも、できるだけたくさん客席で観ました。

『荒野のダッチワイフ』(67大和屋竺)、『15代の売春婦』(71足立正生)は、40年も前の作品。当時の若者の鬱屈した感情がよく出ています。『味見したい人妻たち』(03城定秀夫)は一風変わった物語。『おじさん天国』(06いまおかしんじ)は、ヘンなオジサンが大活躍する痛快篇。『緊縛・SM・18才』(86片岡修二)、『ねらわれた学園 制服を襲う』(86渡邊元嗣)は、いろんな映画をパロディにした遊び心満点の喜劇。『デコトラギャル奈美』(08城定秀夫)、『デコトラギャル奈美〜爆走!夜露死苦編〜』(10城定秀夫)は、女トラッカーを主人公にしたシリーズ。

…という具合に、さまざまなタイプの映画を楽しむことができます。わたしの観た8本以外にも5本、計13本の映画が上映され、観客たちも大いに楽しんでいました。映画祭の始まったときは女性観客しか入れないという原則が貫かれて男性からの不満がありましたが、今年は女性のみの「女湯」、男女が入れる「混浴」と二つの会場が用意されて、カップルで来た人が大勢いました。

女性だけが男性の目を気にせず安心してピンク映画を観るというコンセプトから、男女が一緒にカップルで観に来るという形へと進化してきました。なにしろ、圧倒的に「混浴」の方が入りがよかったのですから。

女性中心のスタッフが運営するだけに、パンフレットなども美しくてセンスも抜群です。中国語の記事で恐縮ですが、今回のポスターを見てください。
http://korea.sohu.com/20101105/n277178395.shtml
このメインキャラクターは「ピン子」という名で1回目から活躍しています。「女湯」の入り口にも、「混浴」の入り口にも、入浴中のピン子のポスターがあって表示になっていました。

また、9月21日のコラムで紹介したDMZ国際ドキュメンタリー映画祭のときに助けてくれたボランティアの女子学生たちが、ここにもボランティアで参加していて再会を果たしたのも、うれしい一幕でした。

ソウルの夜に呑んだ酒が美味しかったことは言うまでもありません。

寺脇研 今週の映画レビュー

◎=ぜひお薦め  ○=余裕があれば観てください ●=わたしはウンザリ

行きずりの街 人と人との距離というものを考えさせる
マリア様がみてる 女子高の内部だけが描かれるために閉鎖的
スプリング・フィーバー 中国の現在を見ることはできる
SP 野望篇 展開の裏にある「野望」が何かがわからないのでは…

2010/11/9

『モグラ町1丁目7番地』

posted by: 寺脇 研 | category: 演劇

龍昇企画公演「モグラ町1丁目7番地」を、こまばアゴラ劇場で観ました。俳優の龍昇さんが主宰する公演で、その都度魅力的な作家、演出家、俳優を集めてプロデュースしてきたのだそうです。

今まで知らなかったこの公演へ足を運ぶことになったきっかけは、Twitterです。今回の作・演出を務める前川麻子さんとTwitterでつながったのが、ちょうど公演の前日という絶妙のタイミングでした。前川さんがわたしの呟きをフォローしてくれたのを知り、早速わたしからもフォローしただけでなくダイレクトメールで久しぶりの再会(?)を喜んだというわけです。

前川麻子は、1980年代後半の演劇界、映画界に彗星のように現れた女優でした。1985年、わずか18歳で劇団「品行方正児童会」を設立、自ら戯曲を書き、演出して、代表作「センチメンタル・アマレット・ポジティブ」など数々の公演を行いました。わたしが知り合ったのは、にっかつロマンポルノの佳作『母娘監禁・牝<めす>』(87斉藤水丸監督)に主演してヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞した頃のことです。当時はわたしも、この映画祭の選考委員のひとりでした。

その後、品行方正児童会の舞台は欠かさず観に行っていたのですが、90年に劇団が解散してからは彼女の演劇活動からちょっと遠ざかっていました。さまざまな方面に才能を発揮する前川さんは、00年には小説「鞄屋の娘」で小説新潮長編新人賞を受賞し、そのお祝いパーティーに行って以来、十年ほどご縁がありませんでした。

そんな仲を復活させてしまうのだから、Twitterの威力はたいしたものです。

久しぶりに観た前川芝居「モグラ町1丁目7番地」は、文句なしに面白い内容でした。龍昇が演じる長兄を筆頭にした中年5人兄弟を中心に、うらぶれた「モグラ町」に集う人々の哀歓が伝わってきます。 …といって、辛気くさい展開ではありません。気の利いた科白の応酬で大いに笑わされたり、観客へのサービス満点の演出に身を乗り出したりする会心の舞台でした。

前々作「モグラ町」08、前作「モグラ町1丁目」09と続いた三部作の完結編だったということで、前2作を見られなかったのがとても残念です。もし再演があったら絶対に観に行くつもりなのは、言うまでもありません。

寺脇研 今週の映画レビュー

◎=ぜひお薦め  ○=余裕があれば観てください ●=わたしはウンザリ

ハーブ&ドロシー
アートの森の小さな巨人
アートを支える個人の力の偉大さ
森崎書店の日々 神保町という街の空気を伝えるだけでなく、若者の再出発が清々しい

2010/11/2

『インヴィジブル・シティ』

posted by: 寺脇 研 | category: 映画

24日夕方に「もりおか映画祭2010」から帰ってきて新宿で1件打ち合わせを済ませた後、東中野のポレポレ東中野へ向かいました。

ここで開かれていた「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京2010」は、山形市で隔年に開催される日本最大のドキュメンタリー映画祭「山形国際ドキュメンタリー映画祭」で2009年に上映された作品を中心にした東京での上映会です。

隔年だから今年は映画祭が開かれず、代わりに東京での上映会を、渋谷のユーロスペースで1週間、ポレポレ東中野で3週間行うことになりました。「もりおか映画祭」が劇映画の祭典なら、こちらは同じ東北でもドキュメンタリーの国際映画祭が、東京へ殴り込んだというところです。地方発の心意気が感じられて応援したくなります。

さて、この日は特別に日本初上映作品『インヴィジブル・シティ』が夜9時からの上映になります。わたしが強行軍でどうしても観たいと駆けつけたわけは、このシンガポール映画の女性監督と最近知り合いになったばかりだからです。

9月14日と21日のこのコラムで書いた韓国のDMZ国際ドキュメンタリー映画祭で仲良くなったタン・ピンピン監督です。毎夜のパーティーでわたしが飲んだくれていると、大柄で活発な女性が英語で話しかけてきました。自分は監督だ、わたしの作品をいつか観てほしい、と。

英語の苦手なわたしですが、酔っぱらっていると大胆になって片言英語と身振り手振りで会話してしまいます。なんとなく意気投合して一緒に呑みました。この人の作る映画ならきっと面白いだろうな、というのは映画評論家の勘みたいなものです。

後日彼女からメールが来て24日に上映があると知り、何が何でも行かなければならない気になりました。

勘は当たりました。60分の中編映画だけど、中にはシンガポールの隠された歴史がぎっしり詰まっていました。刺激的で実に面白い。わたしは、次のような内容のメールを、英語の上手いジャパンフィルムコミッションの職員に翻訳してもらってタン・ピンピン監督に送りました。

【わたしの知らなかったシンガポールの歴史について、映画から多くを学びました。経済発展の裏側にたくさんの切り捨てられた人や考え方があるのは、世界中同じですね。

日本がマレー半島やシンガポールで昔何をしたかは、わたしも詳しく知っています。その過去を反省するのはもちろんですが、そこから今の日本人がアジアの国々とどう向き合うかを積極的に考える方向へ進まないと、単なる懺悔で終わってしまいます。

懺悔は、懺悔する者の心の負担を減らすためにするものです。ひどいことをした相手のことより、自分のことを意識しています。それでは済まされないと思います。過去にひどいことをした相手に対し、現在、そして未来へ向けてどうふるまうかが大切な問題です。

この映画を観てシンガポールの過去と現在を知り、そのシンガポールとこれからどう付き合っていくか、わたしは真剣に考えたいと思います。

今度日本に来るときは、ぜひ連絡してください。また呑みましょう。】

寺脇研 今週の映画レビュー

◎=ぜひお薦め  ○=余裕があれば観てください ●=わたしはウンザリ

さらば愛しの大統領 超おバカな映画なのに腹は立たない。バカに徹しているから
マザーウォーター 京都の街がうまく扱われているが、わたしはわざと話に起伏を作ろうとしないこの手の映画は苦手
雷桜 歴史も文化も人情も無視した乱暴な原作を映画化するのは至難の業だったろう
ゴーストキス 「青春H」シリーズの1作。お手軽に作られているが中身はなかなか
インシテミル
7日間のデス・ゲーム
流行りの人間性を無視した殺人ゲーム映画。そのゲームが全く面白くない
ある夜のできごと やりたいことはわかるけど頻繁に往来する時制をさばききれていない
DearGirl〜
Stori THE MOVIE
ラジオの人気DJ番組をテレビのバラエティーに仕立てるお遊びでしかない

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